今回は「眼鏡合わせ時の度数調整のコツ・ポイント」を【検査手技編】として紹介をしていきます!
眼鏡合わせの上達には「検査手技」と「問診・コミュニケーション」が大切!
私は眼鏡合わせを行う際に以下の3点を意識しています!
- 最高視力がどこまで出るのか?(検査手技)
- 患者さんのニーズ・希望をしっかり聞き出す(コミュニケーション)
- そしてそれに合わせた提案を行う(コミュニケーション)
視能訓練士としての知識を生かして検査を行い、患者さんに納得して頂ける眼鏡を処方するためには、検査手技と同じくらいコミュニケーションの取り方が重要だと感じています!
*今回の内容は、視能訓練士の方・眼科で働く方に向けた内容となります!
眼鏡合わせが難しいと感じる理由
- 最高視力を出すこと・完全矯正度数を導くことが難しい
- 度数の調整方法がわからない
- 乱視や不同視の度数設定が難しい
- 合わせはできるが時間がかかりすぎる
眼鏡合わせをまったくしたことがないケースは別ですが、眼鏡合わせを上達させるには「あなたがどこに難しさを感じているのか?」を知っておく・意識しておくことが大切です!
自分が難しさを感じる部分がわかっている→そこを克服することで眼鏡合わせはどんどん上手くなると私は考えています!
問診→検査ではなく、検査→問診!
ここから実践的な内容に入っていきます!
みなさんは眼鏡合わせを行う際に「問診と検査」はどちらを先にされていますか?
意外と「問診→検査」という形で問診から始めている視能訓練士の方も多いと思いますが、あなたが「眼鏡合わせに時間がかかりすぎる」という苦手意識があるなら「検査→問診」の順をおすすめします!効率がよく時短に繋がります。
*ここでは「検査→問診」の順を推奨していますが、「問診→検査」の順で進めることが間違いという訳ではありませんので、ご自身に合う方法で眼鏡合わせをされて下さい。
なぜか?→先に問診を行う場合は、検査前と検査後に2回も話を行うことになり、時間がかかってしまう!検査前の問診は、初診ならデータなし、再診なら前回データで行うため推測のような内容になることもデメリット!、そして検査後に当日測定した検査データを元にもう一度同じような話をすることになります。
*前回データと当日の検査結果が異なる場合にも有用です。→「問診→検査」の順だと検査前の問診と検査の後の問診の内容が変わります。前回データより当日が結果が悪い場合は、最初に伝えた結果より悪い値を伝えることになるので、患者さんが不信感を抱く可能性もある。
- 眼鏡合わせは「検査→問診」の順で効率アップを!
- 過去データと当日の検査結果が異なる場合にも対応しやすい!
今回の内容は「検査手技」を中心にまとめますので、ここでは検査→問診の順で行うことを頭に入れて頂くだけでOKです。聞き方・提案など問診の仕方は「コミュニケーション編」で詳しく解説しています!
【1番重要】とにかく遠見の完全矯正をきっちり行う!
眼鏡合わせの検査手技で一番重要なことは「遠見の完全矯正度数をしっかり測定すること」!これに尽きます!
まずは「過矯正・低矯正なくきちんと完全矯正度数を測定する」ということを意識しましょう!
以下で完全矯正度数を導くためのポイントを紹介していきます。
①裸眼視力を参考に
完全矯正度数を求める際に、レフ・ケラト値はもちろん参考にしますが、それに加えて裸眼視力も参考にすることができます。
これは経験を重ねて感覚を養っていく分野なので、眼鏡合わせに限らず通常の視力検査時も裸眼視力を意識していく!
- 近視眼で裸眼視力が0.1だと完全矯正度数は-3.0Dくらいだな。
- 乱視眼でもこういう乱視なら裸眼視力は出るな。逆にこういう乱視なら裸眼視力出にくいな。
など、とにかく考えまくる!もし間違っていても大丈夫です!できないうちから完璧を求めすぎず、遠回りになってもOKなのでまずは考えてみる!そうすることで自分なりの感覚が出てきます!
*裸眼視力に対する自分なりの感覚が出てきたら、「レンズのファーストチョイス」が圧倒的に上手くなります。視力検査が上手になるので、結果的に眼鏡合わせを行う上での手技も上達することになります。
②乱視がある時は、ケラト値も見よう!
乱視の矯正を行う上で、「レフ値で表示されている乱視度数より、少なめの度数から始める」というフレーズを聞かれたことがあると思います。
これも乱視矯正の1つの方法です!乱視矯正のファーストレンズを決める際に全症例で一概に全ての症例で乱視を少なめから始めるというのはどうなの?と思われている方もおられると思います!
そういった方々へ向けて乱視矯正テクニックを1つ紹介します!
- レフ値に表示される乱視度数(眼球の全乱視)
- ケラト値に表示される乱視度数(角膜前面乱視)
*角膜乱視は細かく考えると前面・後面で診る必要がありますが、慣れないうちは前面乱視のみ(ケラト値に表示されるもの)で大丈夫です!
*後面乱視(CASIA等で測定できる)は視能訓練士としての業務に慣れてきたら注目してみて下さい。病的乱視では後面乱視に着目するケースがあり、知ると視能訓練士としての深みが出てきます。ただ正常眼では後面乱視はあってもわずか(0.5D程度)なので慣れないうちは一旦置いておきましょう!
乱視矯正のファーストレンズの決め方を例を出しながら解説していきます!
普段はみなさんどこに注目していますか?
まずはレフ値!という方が多いと思います。ケラト値にも注目してみて下さい!
- ケラト値が占める要素が大きいとレフ値付近まで乱視入るかも
- ケラト値が占める要素が小さいとレフ値より軽めの乱視で完全矯正できるかも、と考える。
例1)ケラト値の乱視が弱い場合
まずはレフ値の乱視度数・軸を確認!次にケラト値の乱視度数と軸を確認する!レフ値の乱視度数に対してケラト値が占める要素が小さい!この場合は乱視のファーストレンズはレフ値より軽めから始めてみるという考え方!R)C-1.0DAx85°、L)C-1.0DAx100°程度から。
*レフ値が全乱視を表すのでファーストチョイスレンズの乱視軸はレフ値を参考に!
例2)ケラト値の乱視が弱い場合
例1同様にまずはレフ値の乱視度数・軸を確認!次にケラト値の乱視度数と軸を確認する!レフ値の乱視度数に対してケラト値が占める要素が大きい!この場合は乱視のファーストレンズはしっかり入れて始めてみるという考え方!R)C-0.5DAx170°、L)C-1.0DAx175°程度という形でレフ値のまんま入れてみるのもあり!
*乱視の度数調整は、矯正視力測定時に患者さんにブレる感じが残っていないか確認することも1つの手!ブレが残っていなければ、乱視の矯正はできているかなという1つの目安にできる!
*白内障など眼疾患が原因で単眼複視(ブレ・ダブり)を感じることもありますので、レンズで矯正できないブレがあることを覚えておくことも大切ですが、この記事で記載する乱視は不正乱視がなく矯正視力良好なものとします。まずは基本的な部分(正常眼・健眼)の考え方を押させていく!
③眼鏡度数を参考にするケースも!
角膜疾患、白内障、硝子体出血(中間透光体の混濁)などによってレフ値の信頼性が落ちている場合、レフが測定不能のケースでは度数調整に迷いますよね!
そんな時は「お持ちの眼鏡度数が参考になるケースも」!
眼鏡の度数、眼鏡視力を測定し、眼鏡視力がある程度出ている場合は眼鏡度数を参考に度数調整を進めていく方が効率が良い場合もあります!
眼鏡は見えやすさとかけやすさのバランスが大切!
眼鏡は「見え方とかけやすさのバランス」が大切になってきます!
- 外来での視力検査は最高視力を出すために完全矯正を行う。
- 眼鏡合わせでは完全矯正度数を参考に見え方とかけやすさのバランスを踏まえて「完全矯正で処方 or 度数調整して処方」を検討する!
「かけられる」の目安は?
「眼鏡のかけやすさ」を考えるうえで一番自然なのは「裸眼の状態」。ただ裸眼で不自由がある場合には眼鏡で見え方を補っていくという考え方を前提に!
かけにくい眼鏡度数としてよく聞くのは、乱視や不同視が多いと思います。目安としては乱視度数は2.0D程度まで、度数差も2.0D程度が一般にかけられる度数の上限とされることが多いです。
- 「かけられる」の基準は人それぞれ!
- 初めての眼鏡、久しぶりの眼鏡は注意!
- 「度数が軽い=楽にかけれる」とは限らない!患者さんに装用感を聞いたうえで眼鏡処方を!
そういった知識をもとに眼鏡の度数調整をしていく!
「眼鏡のかけやすさ」の考え方を例を出して解説していきます!
例)25歳男性 以下に視力検査結果を記載します。
RV=0.2(1.5×C-2.25DAx180°)←完全矯正度数。
LV=0.2(1.5×C-2.25DAx180°)←完全矯正度数。
上記の検査結果だった場合に「乱視度数の決定」に迷う人が多いと思います。2パターンの例を出して解説します。
例1)JB度数:B)S-1.5D=C-0.5DAx180°を装用中。
RV=(0.7×JB)、LV=(0.7×JB)、BV=(0.8)
主訴:遠くがぼやけて見えるからもう少し見え方を良くしたい。
→JBの乱視がかなり低矯正。JBで遠くの見えにくさを感じているので、度数を調整する必要があるがJBと比べて乱視度数が上がってしまう。乱視度数を上げすぎるとかけられないかも(頭痛やクラクラ)。そのため完全矯正度数ではなく、見え方はやや劣るが等価球面度数などで度数調整することも念頭に、患者さんと相談を行う。
例2)JB度数:B)C-3.0DAx180°を装用中。
RV=(0.7×JB)、LV=(0.7×JB)、BV=(0.8)
主訴:遠くがぼやけて見えるからもう少し見え方を良くしたい。今の眼鏡にきつさは感じていない。
→JBの情報はとても有用です。乱視が3.0DのJBできつくないなら、乱視度数は完全矯正度数の2.25Dでも違和感なくかけられる可能性大!この場合は見え方を重視して、上記した完全矯正での度数を患者さんに提案してみる。
同じ年齢、完全矯正度数、主訴であっても眼鏡合わせは本当に人それぞれ!ここに関しては経験が必要な部分もありますので、焦らずにご自身のペースでスキルアップを目指していきましょう!
残余調節力を頭に入れておく!
調節力(ピント合わせの力)は年々減少していきますよね!言い換えると「見る距離に幅を持たせにくくなってくる」!老眼世代では遠見の完全矯正度数の眼鏡で近くが見えにくくなる、に代表されるように調節力は見る距離に幅を持たせてくれています!
眼鏡合わせを上達させるには年齢ごとの残余調節力を頭に入れておくことが大切!どれくらい調節力が残っているかの目安です!
表 年齢別の残余調節力 (文献1を参考に作成)
※IOL眼、無水晶体眼は調節力は0Dとなります。上記の数値はあくまで目安で、たまに残余調節力が目安より弱まっている患者さんもおられるのでそこは注意が必要です!
1)所敬. 現代の眼科学改定第12版. 金原出版, 2015 ,65.
眼鏡処方は時間をかけすぎないことも大事
いま眼鏡合わせに難しさを感じている視能訓練士さんに眼鏡処方に所要時間のことについて書くべきか迷いましたが、伝えておきたいことがあるので書かせて頂きます。
- 施設ごとに眼鏡合わせにかけられる時間は異なる(1時間OKの施設もあれば、できるだけ早くという施設も)
- 場合によっては所要時間が患者さんの満足度に繋がるケースも
私がいた大学病院では眼鏡枠というものがあり、1人1時間かけて眼鏡合わせをしていました。現在、勤務している個人眼科はバタバタした外来の中でなるべく時間をかけず、かつ患者さんに満足してもらえる眼鏡合わせが求められます。私の経験では最小限の時間で眼鏡処方を行う眼科が多いかなという印象です。
最後に
今回は「眼鏡合わせの検査手技編」と題して度数調整の際のコツやポイントを解説しました!
眼鏡合わせは誰もが始めは難しさを感じる部分です。そこから上達するかはその人の努力次第だと思っています!たくさん考えたり経験したりして「自分なりの眼鏡合わせの形」を確立していって下さい!
いろんな考え方がありますので、1つの考え方として参考にして頂き、他の考え方も参考にしながら、自分なりにどんどん付け足して頂くと眼鏡処方が上手くなると思います。