今回は「不同視弱視の検査と治療方法」について!
私自身、視能訓練士として働き始めの頃は小児の検査を難しいと感じることが多く、いろいろと試行錯誤していました!そんな経験から「小児検査」をわかりやすく伝えていけたらと思っています!過去には心因性視覚障害や仮性近視などについてまとめています。


今回は弱視についてです!その中でも不同視弱視に絞って、不同視弱視の検査を行う上でのポイント・治療方法について紹介していきます!
※上記したように不同視弱視のみの話をしますので、不同視以外の異常はないものとして話を進めていきます。
弱視について
視力が0.8以下のものを弱視という。1)
1) 丸尾敏夫. 視能学第2版. 文光堂, 2014 ,414.
弱視になる原因としては
- 斜視(斜視弱視)
- 屈折度(屈折異常弱視、不同視弱視、経線弱視)
- 形態覚遮断(形態覚遮断弱視)
これらが単独で弱視の要因になることもあれば、組み合わさって弱視の要因になることもあります。
弱視には機能弱視(治療や訓練により視力が回復する、可逆的な視力障害)と器質弱視(治療や訓練により視力が回復しない、不可逆的な視力障害)の2種類があります。
*器質化した病変や視覚の感受性期間を超えて見つかった弱視などは器質弱視に分類される。
不同視弱視
不同視弱視(anisometropic amblyopia)は、片眼に強度の屈折異常があることが原因で、その眼の視力が低下しているものである。多くは遠視性の不同視で、不同視は2.0D以上、患眼は+2.0D以上、健眼には屈折異常があっても高度ではなく、眼位異常および固視異常、器質疾患がないもの。2)
2) 丸尾敏夫. 視能学第2版. 文光堂, 2014 ,417.
不同視弱視をまとめると
- 度数の左右差(不同視差)は2.0D以上が多い
- 多くは遠視性不同視(弱視眼は+2.0D以上の遠視)
- 健眼の屈折異常は軽度である
ここで「近視性の不同視は弱視にならないの?」という疑問を持たれた方がおられると思います!
近視性不同視は弱視になりにくい?
上記した文章にも書いてあるように、不同視弱視の多くは遠視性です!
近視性不同視で考えてみると「遠く:健眼、近く:近視眼」で見ることができる。そのため近視眼不同視は弱視になりにくいというイメージです!(以下の例を参照)
例:R)正視、L)-3.0Dの近視の近視性不同視の場合
先ほど説明したように「弱視になる=遠近ともにその眼を使えていない状態」。この例であれば、左眼は遠くは見えにくいが30cm付近は見えているため、遠くは右眼、近くは左眼で見ていて両眼とも使えている状態。→近視がある左眼も使えているので、弱視になりにくいという考え方。
一方、遠視性不同視の場合、遠くも近くも健眼で見るため遠視度数が強い方の眼(弱視になる眼)は使えていない状態。→その眼には刺激が与えられず機能が育っていないため矯正しても視力不良(弱視)となる。
ここまでの内容で「近視性不同視が弱視になりにくい理由」を理解して頂けたと思います!
*ただし、近視性不同視のうち片眼の近視が極端に強い場合は注意!その眼が弱視になる可能性があります!(以下の例を参照)
例:R)正視、L)-6.0Dの近視の近視性不同視の場合
先ほど説明したように「弱視になる=遠近ともにその眼を使えていない状態」。この例であれば、左眼のピントが合う距離は約16cm、普段の近業を16cmですることは少ない(距離が近すぎる)。するとどうなるか?→遠くも近くも右眼(健眼)で見ることに。この場合は左眼近視性不同視弱視となりうる。
実際の不同視弱視症例
ここからは、実際の症例を用いて理解を深めていこうと思います。
症例:3歳8ヶ月 男児
3歳児健診にて、スポットビジョンスクリーナーで右眼の遠視、不同視を指摘され来院。保護者の方によると、普段の生活で見えにくそうにはしていない・今まで眼科にかかったことはないとのこと。
当日の検査結果を書いていきます。結果は時系列(行った順)で書いています。
- 3歳ということもあり、集中が途中で切れる可能性あり
- 優先順位を考えて検査に臨んでいく!
- 初診なのでまずは屈折度関係の検査を優先した
[レフ値] 据え置き型オートレフケラトメータ
SPH CYL Axis SPH CYL Axis
1 +4.5 -0.25 5 9 1 -0.5 -0.25 5 9
2 +4.5 -0.25 5 9 2 -0.5 -0.25 5 9
3 +4.5 -0.25 3 9 3 -0.5 -0.25 5 9
< +4.5 -0.25 5 > < -0.5 -0.25 5 >
[ケラト値]
R)AVG 7.89mm L)AVG 7.94mm 角膜乱視はなし。
[眼軸長]
R)21.12mm L) 23.02mm
ここまでの検査結果から
- レフで右眼遠視検出
- ケラトは左右差なさそう。
- 眼軸を見るとR>Lで短い、やはり右眼の遠視ありそう。
*眼軸測定については各施設で様々だと思います。この日のレフでも3歳児健診と同様に右眼の遠視、不同視が検出されたため視力検査の前に眼軸長を測定しました。私は屈折度を考える上で眼軸長はかなり重要だと考えているので必要に応じて測定をしています→この症例はケラトは両眼同程度のため本当にレフくらいの不同視があるなら眼軸長にかなりの差があるという前提で眼軸を測定しています。
*上記の赤文字部分の意味がよくわからない方がおられたら以下の記事を参考にされて下さい。

[視力検査] 字ひとつ ハンドル R→L 集中の関係で遠見のみ。
RV=0.1(0.15×+4.5D)
LV=1.2(1.2×+0.25D) 反応にかなり差がある。右眼はやはり見えにくそう。
[眼位検査]
Hirschberg法(s.c.):looking ortho´ (c.c.):looking ortho´
遮閉試験はまだ難しいが、大きな斜視はないよう。次回来院時以降で引き続き確認。
このような流れになります!
弱視疑いの場合はレフ測定時に得られる情報がたくさんあります!
【レフ測定時のワンポイントアドバイス】
- 固視を見る!→視力に左右差があれば、健眼は視標をしっかり固視できるのに対して、弱視眼はキョロキョロして固視が難しいことが多いです。
- どちらかの眼だけで視標を見ようとしていないか?→この症例の子は、右眼測定時も顔を右に回して左眼で機械内の視標を見ようとしていました。
医師と相談をしてこの日のうちにサイプレを施行。
*医師との相談で斜視がないこと、ケラト・眼軸がしっかり測定でき、度数の目安がわかることより、アトロピンではなくサイプレを選択しています。
[レフ値] サイプレ後
SPH CYL Axis SPH CYL Axis
1 +5.75 -0.25 5 9 1 +0.5 -0.25 5 9
2 +5.75 -0.25 5 9 2 +0.5 -0.25 5 9
3 +5.75 -0.25 3 9 3 +0.5 -0.25 5 9
< +5.75 -0.25 5 > < +0.5 -0.25 5 >
R)S+5.25D L)Planeの完全矯正眼鏡を処方
*処方度数の決定方法は様々考え方があるので勤務する施設の方針に従って下さい。
治療について
不同視弱視の治療法は、まずは完全矯正眼鏡の常用、眼鏡常用後に弱視眼の視力の伸びが悪い・安定しない場合は必要に応じて健眼遮蔽(アイパッチ)を行っていく。
アイパッチはどのタイミングで始めるのか?
これは医師の指示、医師との相談でタイミングを決めていくことになりますが、「視力の左右差」や「患児の年齢」などを踏まえて考えていきます!
今回の症例のような3歳くらいの患児では年齢的に眼鏡を嫌がる可能性がある。眼鏡の常用を嫌がる可能性があるなら、見える方の眼を隠すアイパッチはもっと嫌がることが考えられます。→そのため基本的にはまずは完全矯正眼鏡の常用してもらい、1か月後に来院してもらうようにしています。アイパッチをする場合は眼鏡の常用に慣れてから行っていく!
*ただし「視覚の感受性期間ぎりぎりで見つかった弱視」や「弱視眼の極端な視力不良(極度の視力の左右差)」など緊急を要する場合は眼鏡装用と同時にアイパッチを開始するようにしています。臨機応変に対応していく!
最後に
今回は「不同視弱視の検査と治療方法」についてまとめてみました!
小児検査は誰でも難しさを感じる分野ですので、いきなり完璧を求めようとしないことも大切です!たくさん経験しながらご自身の無理のないペースで一歩ずつ頑張っていって下さい。様々な考え方があると思いますので、1つの考え方として参考にして頂けるとありがたいです!