一般的に老眼(老視)と聞くと、近くが見えにくいというイメージかなと思います。「近くだけが見えにくい?」、「遠くは関係ないの?」などの疑問を持ち、詳しく知りたくてネット等で調べた際に、専門用語ばかりで結局よくわからなかったという経験をされた方がおられると思います。
そこで今回は、そのような方に向けて老眼の解説をしていきます。眼の度数(屈折度)も絡めて考えると、よりわかりやすくなるので屈折度も含めて説明をしていきます!
老眼(老視)とは?
老眼について、教科書的な書き方をすると、加齢に伴う水晶体の弾性の低下により、水晶体屈折力が増加しない状態。つまり調節力が減退し、調節しても近見視が困難になる状態。1)
1)所敬. 現代の眼科学改訂第12版. 金原出版, 2015 ,64.
この教科書的な文章を噛み砕いて書いてみます!
老眼とは、『加齢に伴って、眼のピント合わせの力が弱まった状態』です。
この言い方は、臨床現場で患者さんに老眼の説明をする際にも使っています。「調節力」という言葉を「ピント合わせの力」に言い換えることで一般の方にも伝わりやすくなる印象です。
年齢ごとの残っているピント合わせの力(残余調節力)を表にまとめてみます。
表 年齢別の残余調節力 (文献2を参考に作成)
※IOL眼、無水晶体眼は調節力は0Dとなります。
2)所敬. 現代の眼科学改訂第12版. 金原出版, 2015 ,65.
上記した表を見ると、年齢を重ねるごとにピント合わせの力が弱まっていることがわかると思います!
老眼の影響を受けるのは近くだけなの?
ここまでの内容で、「老眼とは年齢を重ねるごとにピント合わせの力が弱まる」ということを理解して頂けたと思います!ここからはどの距離で老眼の影響を受けるのかについて説明をしていきます。
老眼と聞くと一般的には、近くが見えにくくなるイメージだと思います。それはその通りなのですが、上記したように『老眼=ピント合わせの力が弱まること』です。→見る際にピント合わせの力を使っている場合は老眼の影響を受けることになります!
そう考えてみると、遠視眼では遠くを見る際にピント合わせの力を使っていると思いませんか?→ 遠視眼では遠くを見るときも自分の力を使ってピント合わせをしているから、遠くも見えにくくなり、手元はもっと見えにくくなるということになります。
つまり、眼の度数(屈折度)によっては、近くだけではなく遠くも老眼の影響を受けるということになる!このように、老眼の勉強をする時は屈折度を絡めて学ぶことが重要です!
以下で解説をしていきます。
眼の度数(屈折度)を意識する!
屈折度について、正視、近視、遠視の3つに分けて、遠く・近くの見え方を考えていきます。ピント合わせの力を使っている位置(距離)は老眼の影響を受けやすいということになります。
※乱視を含めて考える場合は乱視の値を等価球面値に変換して考えていくことになりますが、ここではなるべく伝わりやすくなるよう乱視は除いて話を進めています。
屈折度についての理解が不安な方は以下の記事を先に読んで頂くと良いと思います!
正視眼
遠く→ピントが合っている状態。
近く→自分のピント合わせの力を使っている状態。
近視眼
遠く→ぼやけて見える。
近く→近視の度数によるが、割とピントが合っている状態。
遠視眼
遠く→自分のピント合わせの力を使っている状態。
近く→自分のピント合わせの力を使っている状態。
ここまでのまとめ
正視眼・近視眼・遠視眼についてざっくりまとめてみました。ざっくり過ぎてまだよくわからないという方もおられると思います。
何が言いたくてざっくりまとめたのか?→「遠視眼では遠近ともにピントが合わせの力を使っていること」、「近視眼ではピント合わせの力をそこまで使っていないこと」の2つを伝えたくてこのようなまとめ方をしました。
この先は、理解を深めるために例を出しながら解説をしていきます。
例1)正視眼の場合
正視眼は、遠くは楽に見えている、近くは自分のピント合わせの力を使っている状態。
30cmを見たいとき→3D程度の力が必要。
50cmを見たいとき→2D程度の力が必要。
つまり、これだけの調節力が残っていないと裸眼で手元を見ることが難しくなるということになります。→正視眼は手元で老眼の影響を受ける可能性があるということ。
上記した残余調節力の表を見て頂くと、50歳で残っている調節力の平均は2Dのため、50歳の正視眼では裸眼で30cmを見ることは難しく、50cmであれば眼に精一杯力を入れると見えることになります。
このような考え方で近視、遠視も考えていきます。
例2)両眼ともにS-1.0Dの近視眼
この度数で裸眼で生活をしているとして、先ほど同様に考えていきます。
30cmを見たいとき→2D程度の力が必要。
50cmを見たいとき→1D程度の力が必要。
例1と同じように50歳で考えると、残余調節力は2Dのため、50歳で–1.0Dの近視眼では裸眼で50cmは問題なく見ることができ、30cmは眼に精一杯力を入れると見えることになります。
例3)両眼ともS+1.0Dの遠視眼
この度数で裸眼で生活をしているとします。
遠視眼では遠くを見るときも調節力を使っている!→遠視眼では遠くも調節力を使っているというのがポイントです!
遠く(5m)を見るとき→1Dの調節力が必要。
30cmを見たいとき→4D程度の力が必要。
50cmを見たいとき→3D程度の力が必要。
また50歳(残余調節力は2D)で考えていきます。遠くは眼に力を入れるとなんとか見える。手元は、残余調節力2Dのため、50cmでも難しく、30cmはより見えにくい状態となる。
例を3つ出してみました!最後にまとめてみます。
裸眼の状態では、
『手元を見る際に、遠視眼 >正視眼 >近視眼の順で老眼の影響を受けやすくなる!』
遠視眼では遠視度数・残余調節力によっては遠くも影響を受けることになります!
※遠視や近視の場合で眼鏡またはCLで完全矯正をしている場合は、上記した正視眼の状態で考えて頂くとよいです。
調節力の豆知識
遠く・近くで同じ量の調節をかける場合では、遠くの方が調節をかけにくいということを覚えておいて頂くと良いかなと思います!→ 遠見は見る物が遠くにあるため、眼に力が入れにくく、ピント合わせがしづらいということになります。
最後に
今回は、老眼(老視)についてまとめてみました。
臨床で働き始めると、患者さんから「これって老眼ですか?」などの質問を受けることが多々ありますので、患者さんへの説明を行う際にも今回の記事を参考にして頂ければと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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